ウイスキー史の最新章は、気候の章になるかもしれません。スコットランドでは、ピートの採掘が炭素貯蔵庫である泥炭地の保全と衝突する課題として議論され、業界は採掘地の復元や使用量の効率化への投資を始めています。数千年かけて堆積する泥炭は、実質的に再生不能な資源だからです。熟成にも変化の影が差します。夏の高温化は天使の分け前を増やし、伝統的な熟成カーブを狂わせる可能性が指摘され、仕込み水の水源となる河川の水量・水温の変化に対応を迫られた蒸溜所の事例も報じられました。日本では天然氷の蔵元が暖冬による採氷不良に直面し、氷の文化もまた気候の当事者です。各社はカーボンニュートラル宣言、再生エネルギー蒸溜、軽量瓶への転換を進めています。百年後の愛好家がこの時代を振り返るとき、「気候に向き合い始めた最初の世代」と記すのか、それとも別の言葉になるのか——歴史コラムが未来形で書かれる、数少ない主題です。