常温のグラスに氷を入れると、氷はまずグラスそのものを冷やすために溶けます。つまり一杯目の薄まりの多くは、酒でも氷でもなくグラスが原因です。

01 なぜこれほど効くのか

ガラスは見た目より多くの熱を持っています。室温20℃のグラスを氷点下近くまで冷やすには相応の熱を奪う必要があり、その熱はすべて氷の融解から供給される。あらかじめグラスを冷やしておけば、その分の氷が溶けずに済みます。結果として酒は薄まらず、冷たさも長持ちする。何も足さずに一杯の質を上げられる、数少ない手段のひとつです。

02 3つの冷やし方

①冷凍庫に10分入れる——最も簡単で確実。②氷と少量の水をグラスに入れて回し、捨てる——バーの定番で、水の熱伝導を使うため短時間で冷えます。③氷だけを入れてしばらく置き、溶けた水を切ってから注ぐ——手間が最も少ない方法。どれも1分前後の手間で、体感できる差が出ます。

03 冷やさない選択もある

ハイボールとロックでは冷やす効果が大きく、特にハイボールは冷たさが炭酸の持続に直結します。一方、ストレートやトゥワイスアップでは香りを立たせたいので、あえて室温のグラスを使う判断もある。冷やすかどうかは「香りを取るか、冷たさを取るか」の選択です。目的が決まれば、答えは自然に決まります。

04 冷やしすぎにも限度がある

グラスを冷やすほど良いかというと、そうでもありません。極端に冷えたグラスは香りの立ち上がりを抑え、せっかくの銘柄の個性を閉じ込めてしまいます。また表面に厚く霜が付くと、注いだときにそれが溶けて余分な水になる。冷凍庫なら10分前後、氷水なら30秒程度で十分です。「冷たさ」と「香り」はここでも交換条件——目的に応じて冷やす強度を選んでください。夏の暑い日にキンと冷えた一杯を求めるならしっかり冷やし、じっくり香りを追いたい夜は軽く冷やす程度にとどめる。同じ道具でも、その日の狙いによって使い方は変わります。