製氷皿の氷を光にかざすと、外側は比較的透明で、中心部だけが白く濁っています。「水が汚れているのでは」と心配する必要はありません——水道水は十分きれいです。この白さの正体は、水中の空気。そして「なぜ白く見えるのか」は、空の雲や石鹸の泡が白い理由と、まったく同じ物理現象なのです。
01 第一幕 — 空気は結晶に入れてもらえない
水道水には、目に見えない空気が溶け込んでいます(1リットルあたり約20ml——コップ一杯の水にも小さじ数杯分の空気が隠れています)。水が凍るとき、水分子は規則正しい結晶格子を組みますが、この格子に空気の分子の席はありません。凍結が進むと、空気は「まだ凍っていない水」の側へと次々に弾き出されていきます。冷凍庫では冷気が四方から水を包むため、凍結面は外側から中心へ向かって閉じていく——弾き出された空気は逃げ場を失い、最後に凍る中心部で行き場をなくします。
02 第二幕 — 行き場を失った空気が泡になる
水に溶けていられる空気の量には限界があり、凍結直前の中心部では空気が過飽和状態になります。溶けきれなくなった空気は微細な気泡として析出し、そのまま氷の中に閉じ込められる——直径数十マイクロメートルの気泡が、無数に。氷の中心の白い部分を拡大すれば、それは「泡の化石」の集合体です。一度沸騰させた水で濁りがやや軽くなるのは、溶存空気をあらかじめ減らせるから。ただし冷える過程で水は再び空気を溶かし込むため、沸騰だけでは透明になりません。
03 白い氷の実害 — 見た目だけの問題ではない
濁りは美観の問題にとどまりません。第一に、気泡と一緒に不純物や冷凍庫の匂い成分も中心部に濃縮されるため、溶けた時に雑味が出やすい。第二に、気泡を含む氷は密度が低く、スポンジ状に溶け進みやすいため、飲み物が早く薄まります。第三に、気泡の多い部分は構造的に脆く、割れや欠けの起点になる。つまり「白い氷」とは、味・持続力・強度の三点で不利を抱えた氷です。逆に言えば、気泡を排除する凍らせ方——方向凍結——さえ実現すれば、同じ水道水から別物の氷が生まれます。その原理は「方向凍結とは何か」の記事で詳しく解説します。