「自宅でウイスキーを造ってみたい」——愛好家なら一度は夢想する願いですが、日本では免許なしの蒸留は酒税法違反であり、明確な犯罪です(10年以下の懲役または100万円以下の罰金)。梅酒作りは合法なのに、なぜ蒸留は駄目なのか。この線引きには、150年分の歴史が畳まれています。
01 理由は「税」— 国家財政を支えた酒
根拠は酒税法第7条——酒類を製造しようとする者は製造免許を受けなければならない、という規定です。この厳格さの背景は税収でした。明治期の日本において酒税は国家歳入の柱の一つ(日露戦争前後には歳入の3割超を占めた時期もあります)。自家醸造・自家蒸留の全面禁止(1899年)は、この税源を守るための施策でした。つまり日本の「造ってはいけない」は、宗教でも安全でもなく、まず財政の論理から始まったのです。
02 梅酒はなぜ合法か — 例外の構造
現行法では、消費者が自分で飲むために「アルコール20度以上の酒に果実等を漬け込む」ことは例外的に認められています(米・麦・ぶどう等は不可)。梅酒が合法なのはこの規定のおかげ——「新たな発酵・蒸留を起こさない範囲での混和」だけが許されている、と理解すると線引きが見えます。一方、度数を問わず「蒸留」は常に免許の領域です。蒸留器を所持するだけでは違法ではありませんが、酒を蒸留した瞬間に一線を越えます。
03 海外はどうか — 実は世界も大半は禁止
「海外では自由」というイメージは半分誤解です。アメリカも自家蒸留は連邦法で違法(自家醸造ビール・ワインは1978年に解禁済み)、イギリスも蒸留には免許が必要。例外的に、ニュージーランドは1996年に自家蒸留を合法化した希少例です。蒸留酒は度数が高く税率も高いため、どの国も「発酵は緩く、蒸留は固く」の傾向がある——日本が特異なのは蒸留ではなく、どぶろく等の自家醸造まで禁じている点の方です。