1960年代のスコッチ業界では、モルトウイスキーはブレンデッドの「原料」であり、単体で売るものではないというのが常識でした。その常識に、家族経営のグレンフィディックが挑みます。1963年、同社は自蒸溜所のモルトを「ストレートモルト」として英国外へ本格的に売り出しました——後に「シングルモルト」と呼ばれる商品カテゴリーの、世界市場への実質的なデビューです。三角形の瓶、免税店という新しい売り場の活用、蒸溜所見学の一般開放(1969年)——マーケティングの革新を重ねた賭けは、「蒸溜所の個性をそのまま飲む」という新しい愉しみを世界に教えました。追随する蒸溜所が現れ、1988年にはUDV社の「クラシックモルト」シリーズが産地の多様性を体系化、シングルモルトは市場の一大ジャンルへ成長します。今日、マッカランや山崎が世界的な宝飾品のように語られる風景——その扉を最初に押し開けたのは、鹿のラベルの一族の無謀な決断でした。