2003年、ソフィア・コッポラ監督の『ロスト・イン・トランスレーション』が公開されます。ビル・マーレイ演じる盛りを過ぎたハリウッド俳優が、東京でサントリー響のCM撮影に臨む——「For relaxing times, make it Suntory time」という劇中の台詞は、映画の代名詞として世界中で引用されることになりました。下敷きには実話があります。監督の父フランシス・フォード・コッポラは1970年代、黒澤明と共にサントリーのCMに関わっており、幼い監督にとって「日本のウイスキーのCM」は家族の記憶でもあったのです。映画はアカデミー脚本賞を受賞し、響のボトルはスクリーンを通じて世界の映画ファンの目に焼き付きました。2000年代後半からのジャパニーズウイスキー世界ブームを直接生んだのは品評会での受賞ですが、その受け皿となる「日本のウイスキーへの漠然とした憧れ」を耕したのは、この映画だったという見方は今や定説です。文化の伝道は、時に広告よりも映画が担うのです。