2014年9月、NHK連続テレビ小説『マッサン』の放送が始まります。モデルは竹鶴政孝とスコットランド人の妻リタ。国産ウイスキーに人生を賭けた夫婦の物語は、半年間、毎朝お茶の間に届けられました。効果は劇的でした。余市蒸溜所の来場者は放送を機に急増して年間90万人規模に達し、ニッカの原酒在庫は需要急拡大の一因となるほど逼迫、竹鶴やニッカ製品は店頭から姿を消します。ハイボールブーム(2008年)で若者が、品評会受賞で海外が動いていたところに、朝ドラが最後のピース——「物語」を国民全体へ配ったのです。ウイスキーは味や価格の商品である前に、誰かの人生の結晶である——マッサンが証明したこの命題は、当サイトの設計思想でもあります。放送から十年余、余市の見学予約は今も取りにくいまま。一本のドラマが蒸溜所を聖地に変えた、メディア史とウイスキー史の交差点です。