「連続式蒸留機で造った無個性なグレーンを混ぜた酒を、ウイスキーと呼んでいいのか」——20世紀初頭の英国で、この問いは業界を二分する大論争となりました。伝統のポットスチル業者は「ブレンデッドは偽物だ」と訴え、1905年にはロンドンの行政区が販売業者を「純正でないウイスキーを売った」として摘発する事件(イズリントン事件)まで起きます。事態を重く見た政府は王立委員会を設置。1909年の報告書は「ウイスキーとは穀物を糖化・発酵・蒸溜したもの」とし、連続式のグレーンも、それを混ぜたブレンデッドも正当なウイスキーであると裁定しました。伝統派の敗北とも言えますが、この寛容な定義があったからこそ、スコッチはブレンデッドを旗艦として世界市場を制することができたのです。さらに後の法改正で最低3年の樽熟成が義務化され、現代のスコッチの法的骨格が完成します。「ウイスキーとは何か」——この哲学的な問いに、法廷が答えを出した稀有な歴史です。