透明氷に凝り始めた人が必ず通る問いがあります——「水を良くすれば、もっと良い氷になるのでは?」。高級ミネラルウォーター、浄水器、白湯。結論を先に言えば、氷の品質の主戦場は水質ではなく凍らせ方です。ただし水質が効く場面も確かにある——成分ごとに、事実を切り分けていきます。
01 硬度 — ミネラルは濁りの主犯ではない
水の硬度とは、カルシウム・マグネシウムの含有量の指標です。日本の水道水はほとんどが軟水(硬度100mg/L未満が主流)で、欧州の硬水(300mg/L超も普通)とは水の性格が違います。氷の濁りへの寄与で言えば、ミネラルは脇役です——濁りの主犯は溶存空気の気泡であり、軟水域の日本ではミネラル起因の白濁はごく小さい。ただし方向凍結の最後に残る「濃縮水」にはミネラルも濃縮されるため、硬水で作ると末端の濁り層がやや厚くなります。日本の水道水は、氷づくりにおいて世界的に恵まれた出発点なのです。
02 ミネラルウォーターの氷は「もったいない」か
では銘水で氷を作れば最高の氷になるのか。理屈の上では、軟水のミネラルウォーターで作った透明氷は、水道水の透明氷よりわずかに雑味が少ない可能性があります。しかし冷静な事実を二つ。第一に、氷の味の差は「凍らせ方の差」に比べて一桁小さい——濁った銘水氷より、透明な水道水氷の方が確実に上等です。第二に、ウイスキーの水割りやロックでは、溶けた氷は酒と混ざるため、微細な水の個性はほぼ検知不能になります。銘水を使うなら、氷ではなく和らぎ水(チェイサー)に回す方が、その水の個性を味わえる——これが費用対効果の正直な結論です。
03 現実解 — 「普通の水を、正しく凍らせる」
まとめましょう。氷にする水の現実解は次の順です。①基本は水道水で十分——日本の軟水は氷づくりの優等生です。②カルキ臭が気になる地域・繊細な用途では浄水か煮沸——ただし早めに使う。③銘水はチェイサーへ——氷にするのは費用対効果が低い。そして何より、どの水を選んでも「方向凍結でゆっくり」の原則の方が支配的です。氷屋が水道水から宝石のような純氷を作り続けてきた事実こそ、この結論の百年分の証拠と言えます。