カナディアンウイスキーは、世界で最も「知られずに飲まれている」ウイスキーかもしれません。北米では販売量でバーボンと覇を競う巨大カテゴリーでありながら、日本での紹介は「軽くて飲みやすい」の一行で済まされがち。しかしその製法の独自性と近年の評価は、一行に収まる規模ではありません。

01 独自製法 — 穀物ごとに蒸留し、後から重ねる

カナディアンの設計思想は「分けて造り、後で束ねる」です。トウモロコシ、ライ麦、大麦などを穀物ごとに別々に発酵・蒸留・熟成し、最後にブレンドする——スコッチのブレンデッドが「完成酒同士の調合」なら、カナディアンは「楽器ごとの録音を重ねる多重録音」。この方式は配合の自由度が極めて高く、クラウンローヤルの50種の原酒のような精密な設計を可能にします。「軽い」のは能力の欠如ではなく、市場が求めた設計の結果なのです。

02 「ライ」と呼ばれる歴史のねじれ

カナダではウイスキー全般が伝統的に「ライ」と呼ばれます。19世紀、小麦主体の酒にライ麦を少量加えた風味が人気を博し、「ライ入り=旨いウイスキー」の代名詞が定着した名残です。現代の製品のライ麦比率は様々ですが、アルバータ・ディスティラーズのように100%ライを極める専門家も存在——「呼び名は歴史、中身は設計図で確認」がカナディアンの読み方です。

03 再評価の10年 — 世界一が二度

2016年、クラウンローヤル ノーザンハーベスト・ライがウイスキーバイブルで世界一に。2021年にはアルバータプレミアム カスクストレングスが再び世界一に——「地味なカナディアン」の先入観は、この10年で二度撃ち抜かれました。多重録音の設計力と、100%ライの野性。次の一本に迷ったら、北の静かな巨人に一票を。「軽い」の奥にある設計の精密さが、良い意味で裏切ってくれます。