世界中の蒸留所を訪ねると、必ず水の話から始まります。「この湧水があったから、ここに建てた」——山崎は離宮の名水、白州は南アルプスの花崗岩が磨いた軟水、グレンリベットはジョシーズウェルの硬水。創業者たちは例外なく水源に惚れ込んで土地を選びました。では科学的に、仕込み水はどこまで味を決めるのでしょうか。

01 水の三つの出番

ウイスキーづくりで水が働く場面は三つあります。①仕込み水——麦芽を糖化させる母体で、最も大量に使う。②冷却水——蒸気を液体に戻す。③加水——樽詰めや瓶詰めで度数を調整する。このうち味への影響が議論されるのは主に①と③です。仕込み水のミネラル分は発酵の進み方に影響し、硬水は発酵を活発に、軟水は穏やかにするとされます。日本の蒸溜所の多くが軟水で、スコットランドにも軟水は多い——「軟水の穏やかな発酵」は日本とスコッチの意外な共通項です。

02 「水の味」は蒸留を超えられるか

冷静な事実も見ておきましょう。蒸留は沸点差で成分を選別する工程であり、水のミネラルの大半は蒸留器に残ります。つまり仕込み水の味がそのままボトルに届くわけではありません。現代の科学者の多くは「水質の影響は発酵段階を通じた間接的なもので、樽や蒸留設計より小さい」と見ています。それでも造り手が水を語り続けるのは、水源が蒸留所の立地と歴史を決めた「創業の理由」だから——水の物語は、味の説明である以上に、土地の記憶なのです(諸説あり)。

03 水を巡る旅の楽しみ

蒸留所巡りの醍醐味の一つは、仕込み水を実際に見る(時に飲む)ことです。白州の森の水場、宮城峡の新川、グレンリベットの丘の泉——水源に立つと、「この土地でなければこの酒はなかった」という必然が腑に落ちます。味の何%が水かという問いより、水が決めた立地と歴史の100%——それが仕込み水の本当の貢献かもしれません。