ポットスチルの祖先は、中世イスラム世界の錬金術師たちが完成させた蒸留器「アランビック」だとされています。8〜9世紀のバグダードでは、ジャービル・イブン・ハイヤーンらが蒸留技術を体系化し、香料や医薬の製造に用いていました。この技術が十字軍や交易、イベリア半島経由でヨーロッパへ伝わり、修道院の薬草酒づくりに応用されて、やがて穀物の蒸留=ウイスキーの原型へつながったと考えられています。言葉がその旅路を証言します——「アルコール(al-kuhl)」も「アランビック(al-inbiq)」も、アラビア語の定冠詞alを頭に残したままの言葉です。皮肉なことに、飲酒を禁じる宗教文化圏で磨かれた技術が、世界の酒文化の礎になった——ウイスキーの家系図の根本には、この壮大な文明の受け渡しがあります。伝播の正確な経路には諸説ありますが、グラスの中の琥珀が千年の旅の末裔であることは確かです。