アイルランドとスコットランドには、「蒸留技術はキリスト教の修道士が大陸から持ち帰った」という根強い伝承があります。中世の修道院は当時の科学研究所でもあり、薬草学・医学・写本の中心地でした。大陸で学んだ修道士たちが蒸留の知識を持ち帰り、ラテン語の「アクアヴィテ(命の水)」をゲール語の「ウシュクベーハー」に訳して薬として造り始めた——アイリッシュウイスキーが「世界最古」を自認する根拠の一つがこの伝承です。聖パトリック自身が伝えたという説まであるものの、これは後世の脚色との見方が有力で、確かな記録はありません。ただし確実なのは、初期の蒸留酒が「飲み物」ではなく「薬」だったことです。修道院の薬棚から祝宴の食卓へ——命の水が娯楽になるまでには、さらに数世紀を要しました。信仰と科学と酒が同じ建物にあった時代の記憶が、この酒の名前には残っています。