山崎や響が国際的な賞を総なめにし、ジャパニーズウイスキーの世界的評価が頂点に達した2010年代——その裏で、ある問題が静かに広がっていました。海外から輸入した原酒を瓶詰めしただけの製品や、ウイスキーですらない酒が、「ジャパニーズウイスキー」として世界で売られていたのです。日本の酒税法はウイスキーの定義が緩く、産地表示の規制もなかったため、法的にはこれを止められませんでした。

01 2021年の自主基準 — 5つの要点

この状況を受け、業界団体の日本洋酒酒造組合は2021年2月、「ジャパニーズウイスキーの表示に関する基準」を制定しました(同年4月適用開始)。要点は5つ。①原材料は麦芽を必ず使い、水は日本国内で採水されたもの ②糖化・発酵・蒸留を日本国内の蒸留所で行う ③700リットル以下の木製樽で、日本国内で3年以上貯蔵 ④日本国内で瓶詰めする ⑤瓶詰め時のアルコール分は40度以上。この全てを満たして初めて「ジャパニーズウイスキー」と表示できます。

02 「法律ではない」ことの意味

重要なのは、これが法律ではなく組合加盟社の自主基準だという点です。罰則はなく、非加盟社を縛る力もありません。それでもサントリー、ニッカをはじめ主要各社が順守を表明し、ラベルの書き換えや製品の再分類が実際に進みました。法の強制より先に、業界の信用を守るために自らを縛る——この動きは海外メディアからも「日本的な誠実さ」として好意的に報じられ、スコッチウイスキー協会も歓迎を表明しています。

03 基準が変えた日本のウイスキー地図

基準制定は、国内クラフト蒸溜所の追い風にもなりました。「国産3年熟成」のハードルが明確になったことで、各地の新興蒸溜所は堂々と「ジャパニーズ」を名乗る日を目標に原酒を育てています。2020年代の蒸溜所開設ラッシュの背景には、この「名乗る資格の明文化」がある——ルールが産業を育てる好例として、この基準は日本のウイスキー史の転換点に刻まれるはずです。