近年のウイスキーのラベルには、「シェリーカスクフィニッシュ」「ポートウッド」「ラムバレル仕上げ」といった言葉が踊ります。カスクフィニッシュ(追加熟成)とは、主熟成を終えた原酒を別の樽に移し、数か月〜数年だけ「仕上げ」の熟成を施す技法。主熟成が人格を作る学校教育なら、フィニッシュは卒業後の留学——短期間で、酒に新しい言語を覚えさせます。
01 1990年代の発明が業界を変えた
この技法を市場に定着させたのは、1990年代のバルヴェニー(ダブルウッド12年)とグレンモーレンジィのフィニッシュシリーズです。当時は「樽を途中で替えるのは邪道」という声もありましたが、バーボン樽のバニラにシェリーの果実が重なる新しい味は消費者を魅了しました。今やフィニッシュは業界標準の語彙となり、ワイン樽、貴腐ワイン樽、ラム樽、テキーラ樽、日本の梅酒樽まで——世界中の「空き樽」がウイスキーの留学先になっています。
02 なぜ短期間で味が変わるのか
フィニッシュ用の樽は多くが一番詰め(前の酒の成分をたっぷり含んだ状態)で使われます。樽材に染みた前住人——シェリーやポートの糖分・色素・香気成分が、新しく入った原酒へ急速に移行するため、数か月でもはっきり味が変わるのです。ただし匙加減を誤ると前住人の主張が強すぎる「厚化粧」になるため、いつ引き上げるかの見極めがブレンダーの腕。フィニッシュとは、時間ではなく濃度で語る熟成なのです。
03 ラベルの「留学歴」を読む
フィニッシュ表記を読めると、味の予測精度が一気に上がります。シェリー(PX/オロロソ)ならドライフルーツと黒糖、ポートなら赤い果実、ソーテルヌなら蜂蜜と貴腐の艶、ラムなら黒糖とトロピカル、ミズナラなら伽羅の和香——留学先の国の言葉を、酒は必ず持ち帰ってきます。飲む前にラベルで「どこに留学したか」を確かめる。それだけで、一杯は倍面白くなります。