酒販店の棚から山崎が消え、響に抽選券が付き、白州の入荷日に行列ができる——2010年代半ば以降、日本のウイスキー好きの日常風景です。「なぜ作らないのか」という素朴な疑問への答えは、ウイスキーという商品の宿命的な時間構造にあります。
01 原因① 12年物は12年前にしか作れない
ウイスキーの供給は、需要の変化に対して原理的に10年単位で遅れます。2010年代の世界的ブーム(国際受賞・マッサン・ハイボール復活・アジア市場の急拡大)は、2000年代前半——ウイスキー冬の時代のどん底——の仕込み量で迎え撃つことになりました。低迷期に生産を絞ったのは当時として合理的な経営判断であり、誰の失策でもありません。ただ、ウイスキーだけは「売れてから作る」ことが物理的にできないのです。
02 原因② 世界が同時に欲しがった
品薄のもう半分は需要側です。国内のハイボールブームに加え、国際賞の連続受賞で海外富裕層・アジア市場・免税需要が一斉に点火。さらにオークション市場の高騰が「飲む需要」に「持つ需要」を上乗せしました。国内で見かけない山崎が海外の免税店に並ぶ光景への不満も聞かれますが、グローバルブランドとなった以上、供給は世界配分になる——これも成功の構造の一部です。
03 メーカーは増産していないのか?
しています。サントリーもニッカも2010年代から蒸溜設備・熟成庫へ大型投資を続けており、その効果は仕込みから10年前後を経て順次現れます(余市10年の限定復活などはその先触れです)。つまり現在の品薄は「終わらない異常」ではなく「時間差の通過点」——2020年代後半から2030年代にかけて、年数表記品の供給は段階的に改善するというのが業界の一般的な見立てです。