2010年代、世界のウイスキー棚から「12年」「17年」の数字が次々と消えました。代わりに現れたのは、山崎(無印)、響 JAPANESE HARMONY、タリスカー ストーム——年数を書かないNAS(No Age Statement)ボトルたちです。「熟成不足の言い訳だ」という批判と、「年数信仰からの解放だ」という擁護。真実はその中間の、極めて実務的な場所にあります。
01 きっかけは「成功による在庫切れ」
NAS急増の直接原因は原酒不足です。ウイスキーの需要予測は10年以上先を読む賭けであり、2000年代の世界的ブーム(とりわけ日本ブーム)は各社の想定を大きく超えました。12年物を売るには12年前の仕込みが要る——過去の判断は変えられません。年数表記を守って欠品させるか、表記を外して若い原酒も使える設計に変えるか。各社が選んだのが後者でした。NASは怠慢の産物ではなく、成功が招いた在庫の物理学なのです。
02 「若い=悪い」ではない、が「同じ」でもない
冷静な評価をすれば、NASには二面性があります。良い面——ブレンダーが年数の縛りなく、若い原酒の活力(華やかな香り立ち)と古酒の深みを自由に組める。響JHの流麗さや山崎NASの苺の瑞々しさは、この自由の産物です。注意すべき面——同じ名前でも旧12年と同じ味ではなく、実質的な熟成構成は非公開になる。つまりNASは「別の設計の製品」であり、旧年数品の廉価版でも同等品でもない——この理解が、正当な評価の出発点です。
03 NASボトルの選び方
実践的には、①裏ラベルや公式サイトで設計思想(樽構成など)を語っているか ②度数が43%以上あるか(若さを骨格で支える設計の目安) ③信頼できる造り手か——の三点で見ればまず外しません。名品NAS(響JH、アードベッグ ウーガダール、ラフロイグ クオーターカスク)は、年数表記の名品と同じ棚で堂々と戦っています。数字の有無で選別する時代は、もう終わりました。