アイリッシュウイスキーの棚には、二つの老舗が並んでいます。緑のジェムソンと、白いブッシュミルズ。「どちらもアイリッシュでしょ」と流されがちなこの二本は、実は島の南北、製法、歴史のすべてで対照的な好敵手です。

01 北の古豪 — ブッシュミルズ

北アイルランドのブッシュミルズは、「世界最古の公認蒸溜所」を名乗る老舗です(1608年の蒸溜免許に由来——この主張には歴史解釈の議論もあります)。製法の特徴は、モルト(大麦麦芽)100%の原酒を核にすること。シングルモルトの伝統をアイルランドで守り続けた家系で、味わいは蜂蜜とバニラ、麦の甘さが素直に出る設計です。ブラックブッシュ(シェリー樽多め)や10年シングルモルトなど、モルト愛好家に近い体系を持ちます。

02 南の巨人 — ジェムソン

対する南のジェムソン(ミドルトン蒸溜所)の核は、アイルランド固有の「シングルポットスチル」様式——発芽大麦と未発芽大麦を混ぜて仕込む伝統製法です。未発芽大麦由来の油分あるスパイシーな口当たりが特徴で、ここにグレーンを合わせた軽快なブレンドが緑のボトルの中身。モルト純血のブッシュミルズに対し、ジェムソンは「アイルランドにしかない配合」の旗手です。かつて麦芽税を逃れる知恵だった製法が、今や独自性の勲章になっています。

03 対決のやり方

スタンダード同士(ジェムソン vs ブッシュミルズ・オリジナル)をストレートかロックで。ジェムソンの滑らかさの奥のスパイス、ブッシュミルズの麦の甘さ——「同じ軽やか系アイリッシュ」の中の設計差が見えてきます。上級戦は、レッドブレスト12年(ポットスチルの最高峰)vs ブッシュミルズ10年シングルモルト——アイルランドの二大様式の頂上対決です。聖パトリックデーには、南北どちらかではなく両方を開けるのが、この島への一番の敬意かもしれません。