「ワールドブレンデッドウイスキー」——2010年代後半から日本の棚で急に目立ち始めた言葉です。スコッチでもジャパニーズでもなく、世界各地の原酒をブレンドした新カテゴリー。誕生の背景には、日本のウイスキー業界の正直さと商魂の、絶妙な折り合いがあります。
01 定義 — 「五大産地を一本に」
ワールドブレンデッドとは、複数の国で造られた原酒をブレンドしたウイスキーの呼称です。代表格のサントリー「碧Ao」は、同社が保有する世界5大産地の蒸溜所——アイラ(ボウモア等)、アイルランド(クーリー)、アメリカ(ジムビーム)、カナダ(アルバータ)、日本(山崎・白州・知多)——の原酒だけで組まれています。一社が5カ国に自前の蒸溜所を持つからこそ可能な設計で、「世界を一杯に」というコンセプトは伊達ではありません。イチローズモルトの「ホワイトラベル(モルト&グレーン)」も、海外原酒と秩父原酒を組み合わせたワールドブレンデッドの先駆けです。
02 味の設計 — 国境なきブレンドの面白さ
ワールドブレンデッドの味わいの鍵は「各国の役割分担」です。碧Aoを例にすれば、バーボン原酒の明るい甘さが土台、アイリッシュの滑らかさが繋ぎ、アイラのスモークが隠し味、ジャパニーズが全体の調和を担当——国ごとの様式美を「楽器」として編成するオーケストラ型の設計です。スコッチブレンデッドが「同郷の原酒の和音」なら、ワールドブレンデッドは「多国籍の混声合唱」。飲み手としては、一杯の中に五大産地の教科書が入っているようなもので、入門者の産地学習にも実は最適です。
03 評価と展望 — 過渡期の徒花か、定番か
「原酒不足の間に合わせでは」という冷めた見方も当初はありました。しかし興味深いことに、ジャパニーズの供給が回復し始めた現在もこのカテゴリーは棚に定着しています。国境を役割分担と捉えるブレンド思想は、ウイスキーの長い歴史でも新しい表現であり、各社の技術者が本気で楽しんでいる気配すらある——五大ウイスキーの次の章は、国別対抗ではなく越境の時代かもしれません。碧Aoのロックで、その最前線を確かめてみてください。