本州の中央部、北陸から近畿にかけての地帯には、日本のウイスキーの「原点」と「異端」が同居しています。京都郊外の山崎という聖地と、富山・滋賀の個性派クラフト——世代も規模も違う三つの物語を並べてみます。
01 山崎 — 1923年、すべてが始まった谷
近畿の、そして日本のウイスキーの原点は言うまでもなく山崎蒸溜所です。天王山の麓、三川合流の湿潤な谷——千利休が茶室を結んだ名水の地に、鳥井信治郎が日本初の本格蒸溜所を建てました(物語は歴史コラム・入門コースで)。百年を経た現在も、多彩な設備で原酒を作り分ける「一社内多様性」の総本山として、世界のシングルモルトの頂点の一角にあります。見学は抽選級の人気——予約サイトとの戦いも、現代の巡礼の一部です。
02 長濱 — 日本最小級から始まった挑戦
琵琶湖の北岸、黒壁の観光街で知られる長浜に2016年に生まれた長濱蒸溜所は、稼働当初「日本最小級」を看板にしたマイクロディスティラリーです。地ビールレストランに併設された小さなスチルから出発し、多彩な樽での実験的なリリース(アマハガンのブランドで知られるブレンデッドモルトなど)を高速で重ねる——小ささを機動力に変える戦略で、クラフト世代の「実験室」的存在として支持を集めています。
03 原点と異端を往復する
この地方の楽しみは、原点と最前線の往復です。山崎(バーの一杯でも)で日本のウイスキーの「完成形」を確認し、三郎丸の煙や長濱の実験作で「現在進行形」を確かめる——百年の物語と、いま書かれている物語を、同じ週に飲み比べられる。北陸新幹線と京都観光のルート上という地の利もあり、「旅程に組み込める産地」としても優秀です。